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最高裁判所第二小法廷 昭和37年(オ)971号 判決 1963年2月01日

主文

理由

一、控訴人の署名捺印部分の成立につき当事者間に争がないことと原審(第一、二回)および当審証人小谷久信の証言とにより、高野春吉作成部分を除き、真正に成立したと認める甲第一号証、右証言原審および当審における被控訴本人訊問の結果によれば、被控訴人は昭和三十三年二月六日鳥屋尾喜道に対し金二十万円を利息日歩三銭五厘弁済期同年八月二十五日の約で貸与したことが認められ、原審における控訴本人訊問の結果(第二回)中右認定に反する部分は措信しがたく、他に右事実を左右するに足る証拠はない。

二、そして控訴人が同年二月六日鳥屋尾の右債務につき保証する旨の契約をしたことは、控訴人が原審以来認めるところであり、当審第二回弁論期日において右自白を撤回したが、本件に顕れたすべての証拠によつても、右自白が真実に反し且つ錯誤に基くものであることを認めるに足らないから、右自白の撤回は許されない。控訴人は右保証契約は要素の錯誤により無効であると主張するから、この点について判断する。前記甲第一号証、原審(第一、二回)および当審証人小谷久信の証言、原審における控訴本人訊問の結果(第一、二回)によれば、控訴人は鳥屋尾の依頼によつて右保証をなすことを承諾し、借用証書(甲第一号証)に保証人として署名捺印して同人に渡し、同人においてその借用証書を被控訴人に差入れて金員を借受けたものであつて、右署名当時鳥屋尾から高野春吉も保証すると告げられており、借用証書にはすでに保証人高野春吉と表示されていたことが認められる。しかし仮に控訴人主張の如く、控訴人が保証契約をしたのは高野が共同保証をすると信じたからであつたとしても、かかる事由は通常保証契約をする動機ないし縁由たるにとどまるものであつて、被控訴人との間の保証契約の締結に当り、それが表示されたことを認むべき証拠はないから、本件保証契約の要素とはならなかつたというべきであり、したがつてその点に錯誤があつたとしても、保証契約の無効をきたすものではない。なお控訴人は小谷久信が被控訴人の代理人として本件消費貸借および保証契約の締結に当つたものであつて、控訴人が保証をするに至つた右事由は小谷においてこれを了知していたと主張するが、原審における控訴本人訊問の結果(第一、二回)中右の点に関する部分は信用しがたく、他にこれを認むべき証拠はない。したがつて控訴人の右主張は採用しない。

さらに控訴人は本件保証契約の締結に当り被控訴人の代理人たる小谷が詐欺を行つたからこれを取消す旨主張するが、小谷が被控訴人の代理人であつたことは前記のようにこれを認めがたいばかりでなく、原審における控訴本人訊問の結果(第一、二回)中小谷が詐欺を行つた趣旨に解される部分は措信しがたく、他にこれを認むべき証拠はない。したがつて右抗弁もまた採用できない。

されば控訴人は本件借金債務につき保証人としての責任を負うべきものといわなければならない。そして原審(第二回)および当審証人小谷久信の証言によれば、鳥屋尾は前記金員借受け当時衣類雑貨品の販売を業とする証人であつたことが認められる。控訴人は鳥屋尾が右金員を日常の生活費補填のため借受けたものであると主張するが、原審における控訴本人訊問の結果(第二回)中右主張に沿う部分は措信しがたく、他にこれを認むべき証拠はない。したがつて右金員は商人たる鳥屋尾がその営業のため借入れたものと推定すべく、右借受金債務は同人の商行為により生じたものというべきであるから、その保証人たる控訴人は鳥屋尾と連帯してその支払をすべき義務があるといわなければならない。

三、控訴人は被控訴人が鳥屋尾に前記金員を貸与する際日歩二十五銭の割合による百八十日分の利息金九千円を天引したと主張するが、原審における控訴本人訊問の結果(第二回)中右主張に沿う如き部分は措信しがたく、他に右事実を認むべき証拠はなく、却つて原審(第一、二回)および当審証人小谷久信の証言、原審および当審における被控訴本人訊問の結果によれば、天引の事実のなかつたことが認められる。

さらに控訴人は、本件借金債務は支払済であると主張する。しかし鳥屋尾が昭和三十三年六月末日までに本件貸金のうち元金二万円の支払をしたことは被控訴人の自認するところであるが、これを超える金員の支払があつたことを認むべき証拠はない。

四、されば控訴人に対し元金十八万円およびこれに対する昭和三十三年七月一日より完済まで日歩三銭五厘の割合による利息損害金の支払を求める被控訴人の本訴請求はこれを正当として認容すべく、これと同旨の原判決は相当であるから本件控訴を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十五条を適用し、主文のとおり判決する。

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